8years (8) 『馬鹿ね、そんな事今更言って何になるのよ』 事実を告げたいと言った、新一に対しての志保の第一声はそれだった。 『解毒剤を服用するとき決めたじゃない、蘭さんはどうしてもって言うから許したけど・・・あの子達には刺激が強すぎるんじゃなくて?』 「でもっ、俺は」 新一は言葉を言いかけるが、志保はそれを遮って、電話越しに淡々と口を開く。 『貴方、言ったんでしょ?』 「え?」 『吉田さんに。告白された時に、他に好きな人がいるって』 「そうだけど・・・」 『じゃあ、それは彼女自身の問題よ。私たちがどうこうする問題じゃないわ』 志保は、迷い無くきっぱりと言い放つ。新一はその言い方にむっとした。 「でも俺は、もう誰にも・・・こんな大きな嘘は付きたかねーんだよ」 蘭に自分を偽り続けた時、胸が引き裂かれるような思いだった。嘘を付くのがこんなに辛いなんて、思いもよらなかった。一つ嘘をついて、それを隠す為にまた一つ嘘をつく。 繰り返す悪循環。罪悪感。そして今、彼らへ嘘付くのが辛くてたまらない。 ──真実を知らない方が幸せかもしれない。 でも彼らは前に進めない。それは本当にしあわせなのか?コナンが架空の人物だと知って、彼らは泣くかもしれない。 でも一生、真実を知らぬままでいた方がよっぽど嫌なんじゃないか? (あいつらは俺が抜け駆けすると怒るだからきっと俺だけが知る真実があったら…あいつらは怒るよな?) 新一の中で想いが交錯していく・・・ 「ねえ、私に変わって」 ずっと側で様子を伺っていた蘭が、受話器を取った。少しだけ間を置いて、ゆっくりと話し始めた。 「ねえ、志保さん。私は本当に嬉しかったの。新一が本当の事言ってくれて。コナン君が新一だって事位とっくに気付いてたけど、本人の口から言われて嬉しかった。だからこれ以上黙ってないで、言ってもいいと思うの。皆もう中学三年だもの、きっと理解してくれる・・・」 『理解は、して・・・くれるかもね』 「だったら・・・!」 志保の口調は固い。 『今まで友人だと思ってきた女が、犯罪組織の一員で毒薬を作ってたなんて残酷でしょう?』 「貴女ははそれを望んでいた訳じゃないじゃないのよ!本当は嫌で、抜け出したかったって言ってたじゃない・・・あの子達も解ってくれる」 そして新一に代わる。 「ダメか?宮野」 『嫌なのよ・・・』 「え」 『私はあの子達にに過去を知られたくない。こんな生き方を知られたくない!人殺しだって思われたくないの!!』 これが本音。自分の事だけを考えた自分勝手な言い分だと・・・志保は自覚している。でも、たった独りだと思い込んでいた自分が、大切だと思える他人を見つけて、彼らに、嫌われたくないと思うのは、紛れも無く本音なのだ。 『私、我儘?』 志保が、くしゃりと顔を歪ませる。 「・・・いや」 『自分勝手よ。私が人殺しだってのは本当の事なのに、それを知られたくないと思うのは』 「そうじゃない」 『弱くなったわ、私。昔はこんな事思わなかった』 「それは、弱いんじゃない。人を好きになれば、怖くなる事なんて、沢山ある」 友人でも、恋人でも・・・大切な人ならば。 志保は『どうなっても知らないからね』そう言って、投げやりな態度で電話を切ってしまった。 本当は、志保だって解っている。いつまでもこのままじゃいけないことくらい。 (解ってる。あの子達が・・・迷ってるって事くらい。私だって、もう、逃げてちゃいけない・・・) 新一と、蘭との事に区切りを付けたのだから。 前へ進むと、決めたのだから。 next |
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