灰色の涙 「哀ちゃん?」 屋上。 ぼんやりと空を眺めていた私は、急に現実に引き戻された。 「何でもないわ」と、吉田さんの心配顔を見て,慌てて答える。 「少し・・・昔のことを思い出していただけよ」 教えて教えて!・・・と、聞いてくるかと思ったのに、意外にも彼女は何も言わなかった。 「・・・聞かないのね」 「・・・だって、辛そうな顔してるから・・・」 そう、過去にいい事なんて一つも無い。 思い出せるのは暗闇のような記憶。 闇を照らしてくれた唯一の肉親すら、もうこの世にいない・・・―― ◇ 『どういうこと?あれはまだ未完成・・・それなのに勝手に人間に投与するなんて』 私が組織を抜ける前のある日――本部からやってきた男(コードネームは私に言わなかっった)に、APOTX4869の使用を伝えられた。 『我々があの薬をどうしようとお前には関係の無いことだ、シェリー。お前はただ組織の命令どうり研究を続けていればいいんだよ』 『あれは暗殺のために作った薬じゃないわ!!!あれは・・・あれは私の両親の意思を引き継いで必死になっていた研究なのに!』 すると、私はいきなり銃を突きつけられる。 『もう黙っておいたほうがいい、さもなくば貴様の姉が死体となって此処にやって来る事になる』 姉を引き合いに出され、私には為す術が無い。 『わ、解ったわ・・・姉は組織には関係ない。手を出さないで・・・』 そう言って俯くと、あるフロッピーを渡された。 『これは?』 『APOTX4869の服用者リストだ。死亡が確認されていない男の家に調査員を派遣する。薬の考案者としてお前も同行してもらう』 『――一体誰なの?』 『工藤新一・・・好奇心が災いして死ぬ羽目になったガキさ』 男はそのまま私の元を去って行った。 リストには何人もの殺された人の指名が綴ってある。私が殺した、人達が。それを見るだけで、涙が溢れた。 違う!!!私はこんな事の為に研究をしていた訳じゃない! 私は毒薬を作っていた訳じゃない!・・・私は――― 「正義」なんて興味は無かった。・・・ただ、自分の所為で人が死ぬのが耐えられなかった。 そしてしばらくして、私は耳を疑うような事を組織から聞かされる。 『お前の姉は死んだ』 姉が、組織の仕事に手を染め、殺された。 なんで?なんで・・・ なんで!!! 『お前には関係無いことだ』 何度聞いても返事はこれだけ。 そ・・・んな・・・ どうしてお姉ちゃんが殺されなきゃいけないの? 何で理由を教えてくれないの? 『大丈夫、うまくいってるから・・・』 そう言ってたじゃない! どうして? どうして!!! お姉ちゃんをかえしてよ!!!!! 新聞には『10億円強奪犯自殺』の文字。 お姉ちゃんが自殺するわけないじゃない!!!!!! 姉の殺された理由を告げない組織に反抗する為に、私はAPTOX4869の研究を中断するという強硬手段をとった。当然のように彼らに歯向かった私は拘束され、ガス室に監禁された。左手を手枷に繋がれて。 きっと殺されると解っていた。たとえ薬の研究に遅れが生じても、彼らは私を始末する。結局は、私も姉も組織に踊らされていただけなのだから。 でも、別にどうなっても良かった。もう私の周りは暗闇なのだから。闇は果てしなく続いているのに、私はあても無く歩き続けなければいけないの? 嫌だ。 お姉ちゃんのところに行かせてよ!闇を照らしてくれたのは――私が生きていられたのはお姉ちゃんがいたから。それに、私は人殺し・・・生きていていいの? だったら―― 私の頬に涙が伝う。 姉が死んでから、どれくらい泣いただろうか。 真っ暗なその部屋の中――私は隠し持っていたAPTOX4869を口に含むと、一気に飲み込んだ。 ◇ 「もう・・・泣かないで。つらい事・・・思い出してるんでしょ・・・?」 気がつくと、吉田さんの顔が目の前にあった。 あれから皮肉にも生き残った私は、紆余曲折を経て小学生として身を隠していた。 今でも苦しみは私の中にある。夢をみれば、低く、威圧感のあるあの男の声が、冷ややかなあの女の声が、響いてくる。姉を思い出しては、悲しくて涙が流れた。 「哀ちゃん。つらい事考えるよりも、私たちと一緒に楽しいことしよう?」 優しい言葉と眼差しに、彼女が私より10も年下なことを忘れそうになった。 「私、哀ちゃんの事大好きだよ!」 そう言って、私の手をぎゅっと握り締める。 あったかい・・・ 凍てついた心が解けていく様に、涙目だった私は落ち着いてきた。 私にはもう笑いかけてくれる人はいないと思っていたのに。 まだ何も本当の事を話していないのに。 私は独りじゃないと思っていいの? 私の事を、受け入れてくれるの・・・? 「哀ちゃんは私の一番の親友だもん!!」 「え・・・」 照れくさくて。 でも、いつのまにか私の周りは温かくて。 嬉しさが込み上げた。 涙も、乾いてゆく・・・・ まだ、私の正体を、真実を言うわけにはいかない。 いかないけれど―― でも暗闇の向こうに、小さな出口が見えた気がした。 まだ遠いけれど、きっと歩いていける。 だから―― 私は一人足早に階段へ向かい、振り向いて、言う。 「もうすぐチャイムがなるわ、おいていくわよ・・・歩美?」 その瞬間、歩美は目を見開いた。 「うん!」と、とびきりの笑顔で私の元に駆け寄ってくる。 もう涙は出なかった。 Fin ************************* 哀ちゃんと歩美ちゃんの関係が大好きですvv |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||