おあずけ











「新一、大丈夫?」
 蘭が、疲れの色を残す幼馴染の顔を覗き込んだ。
「大丈夫だって」
 そう言う新一の顔は、明らかにその台詞が強がりだと言うことを物語っている。新一自身は机に突っ伏して、顔色を覗かれない様にしていたが。
「事件、解決したっばっかりなんだし、学校来ないでまだ家で休んでた方が・・・」
「嫌」

 新一が組織を壊滅させて、蘭に「ただいま」を告げてから、早10日。世界規模の組織に対抗する為に、FBIだけでは足りず、インターポールの協力を経て、なんとか長い戦いを終結させた。しかし、組織の構成員を拘束しただけでは、事件は終わるわけではない。組織の施設の立ち入り捜査、逮捕者の取調べ、お偉いさんへの証言―――膨大な量の後始末が、未だ残されていた。
「あーっ畜生・・・」
 後始末に関しては、日本警察が行うものに対して新一にも協力が依頼された。毎日夜遅くまでの取調べに立ち会うのは、元に戻ったばかりの身体には少々辛い。元々、新一は自分の解決した事件の犯人の取調べには立ち会わない主義だが、今回の事件に関しては当事者であり、被害者。そして情報提供者だ。ここまで関わったなら最後まで、と新一は決めていた。
 けれど、「高校生探偵」としての任務を果たそうとしていても、頭の片隅に、未だ言えていない「帰ったら蘭に伝えようとしていた俺の本音」がちらつく。帰ってきた当日は言おうとした瞬間に、警視庁からの電話の所為でおあずけを喰らってしまった。

(学校来ねーと蘭に逢えねーからな)
 学校が終わると、深夜までは帰れない。
(あと何日くらいかかるんだろ・・・)
 学校は、楽しい。一年もの長い休学だったにもかかわらず、クラスメイトは温かく、そしてニュースを見たのか、誇らしげに自分を迎え入れた。
(責任持ってやらなきゃいけねーけど、でもなあ・・・)
 新一がこうした日常を取り戻したかった理由は蘭だ。
「新一君」
 園子が起き上がった新一に声を掛けた。
「園子、蘭は?」
「職員室。それより新一君、まだ蘭に何も言ってないんでしょ?」
 腰に手を当てた、怒り口調。新一は思わず後ろに下がる。
「・・・蘭に聞いたのか?」
「違うわよ。あんたらの様子からなんとなく」
 中々の観察眼だな、と新一は心の中で苦笑いした。
「早く言ってあげてよね」
「わーってるよ」
(こっちだって言いたいよ)
 だが後始末が終わるまで、まとまった時間は取れそうに無い。途中で呼び出されるのがオチだ。いつかの様な失態は避けたい。
(取り合えず、今やらなきゃいけないことを、だな・・・)
 やがて始業チャイムが鳴り、新一はそのまま眠りについた。


「あとどれくらいかかりますかね?取調べ」
 警視庁の休憩室。新一はコーヒーを片手に、目暮に尋ねた。
「いつもすまないね。そうだな・・・あと一週間位したら一段落しそうだよ」
(あと七日・・・か)
「いえ、こちらこそ何かありましたらなんなりと言ってください」
(一週間・・・長いんだか短いんだか)
 新一は椅子から立ち上がると、身体を伸ばす。
(・・・あ、そうだ)
 動作の途中で何か思いついたように目を見開いた。おもむろに携帯電話を取り出すと、新一はポケットから取り出したメモを見ながら電話を掛け始める。

『はい、レストランアルセーヌです』
「一週間後に予約を取りたいんですけど。―――ええ、二名様で」
(予約しちまえば取調べ中、あれこれ考えないですみそうだな)
 電話を切ると、そこにいるのは不敵な笑みを浮かべた、高校生探偵工藤新一。
(待ってろよ、蘭)



 一週間のおあずけ。
 けれど、その後に待っているお楽しみを考えれば、短いのかもしれない。




















fin

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シリアスじゃないのって久々かも。
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