8years (11)











 志保は工藤邸を立ち去ろうとしていた。もう真実を伝えたからいる意味はないと考えたのだろう。
「灰原…いや、志保さん!待ってください!」
 玄関で彼女を引き止めたのは光彦だった。
 深呼吸をして、声を振り絞る。心臓が口から飛び出しそうだった。

「僕は、灰原さんの事が好きでした!だけど…勉強しても、雑学を身に付けてもコナン君に叶わなくて…悔しかったんです。頼ってもらいたかったから」
 突然の告白に、志保は目を見開いた。
 彼女はそれほど鈍感ではない。あの頃、光彦が自分に向ける好意に気づいていなかったわけではなかった。けれど今此処でそれを向き合って告白されるとは予想していなかった。

「僕にとって灰原さんは大好きな憧れの人なんです。貴方が認めてくれるような、これから出会っていく人や今、僕の周りにいる人を守れるような男になりたいんです!」
 頬を染めて、必死に言い切った光彦は、恥しがりながら、もう一度口を開いた。
「なれますよね?僕でも」

「大丈夫よ、きっと貴方なら」
 志保はいつものように淡々と告げた。しかしその言葉は優しさを感じさせるもので、光彦の顔が綻んだ。
「私ね、貴方達がいてくれたか立ち直れた。どうやったって、私のした事は許されることではないから。でもね、貴方達の無邪気な笑顔が私に生きる意味を教えてくれた。普段こんな事言うキャラじゃないけど…本当の事よ」
 そして志保は今まで見たことのない笑みを、光彦に向けた。
「ありがとう、円谷君」
 それだけ告げて、志保は踵を返した。


「なあ光彦」
 後から元太の声がした。
「俺もよ、歩美にちゃんと意識してもらえるようになりてーんだ。今までは素直になれなかったし、歩美は吹っ切れてなかったからさ。だけど、これからは違うだろ?──それにお前も、誰に惚れるかわからねーし…」
 元太の言う”誰”が、誰を指しているのか、光彦にはまだ解らなかったが黙って聞いていた。それは、これから先の事だ。
 そう、誰にも解らない”未来”の。

「だけど、ちゃんと俺を歩美に見てもらえるようになりてーんだよ。だから、頑張るぜ」
 元太は、少しだけ男らしくなった口調で拳を握り締めた。

「元太君、また僕が恋敵になっても僕達は友達ですよね?」
「当たり前だ!コナンも灰原も少年探偵団の仲間だ!」

 その声と同時に歩美が近付いて、二人に抱きついた。

「これからも、ずっーと一緒だよね!」

 そう、これからも少年探偵団は不滅なのだ。
 彼らは前へ踏み出して、少しずつ大人になって。
 沢山の思い出を背負って、支えにして――



 三人が笑いあっている脇で新一は蘭に言った。
「なあ、俺思うんだ。『コナン』の存在は俺達に必要なものだったんだって」
 それは、もちろん今だから言えることだ。
 あの頃は、辛い事も苦しい事も沢山あって、必死だった。
「たけどコナンがいなかったらこうやって俺達があいつらと出逢う事も、俺が素直になる事も、宮野が笑顔になれる日が来る事もなかった」
 決して平坦な道だけ進んできたわけではない。
 転んで、立ち上がった。
 回り道を通ってきた。
 それでも今、皆が笑っている。

  「あの一年は無駄じゃなかった、そう思う。駄目か?」

 二人は顔を見合わせる。
「うん。そうだね。私もコナン君に教えてもらった事、沢山あるもの」
 いつまでも色あせない大切な、記憶。

「…ありがとう、コナン君」
 蘭は、あの頃のような口調で言った。
 新一の後ろに、あの、眼鏡の少年が見えた気がした。






















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