8years (7)











「歩美!」
「歩美ちゃん!」

 米花公園のブランコに一人座っていた歩美の前に現れたのは、元太と光彦だった。
「どうして・・・」
 歩美は赤い目をして、二人を迎えた。月明かりと街灯から顔を逸らす。
「お前の母ちゃんから電話があったんだよ・・・!そんで捜し回って・・・オメー何があったんだよ」
「べっ、別に大丈夫だよ・・・!何でもない!」
 心配掛けまいと作り笑いを浮かべる。けれど、そんな嘘が通用するはずも無く。
「嘘つけ!オメーの作り笑いなんか見たくねーぞ!俺馬鹿だけどよ・・・歩美の事位、顔見りゃ解るぞ!何年顔合わせてんだよ!」
 元太の言葉を聞いて、歩美の瞳からまた、抑えていた涙が流れ出した。
「歩美ちゃん、僕達は・・・歩美ちゃんが心配なんです。何でも、相談に乗りますから・・・」
 光彦が、手をそっと歩美の肩に乗せる。
「ごめ、んね・・・」
(コナン君の事ばっかり考えてて・・・二人の事、考えてなかった・・・)
 自分にとっては、二人も、大切な人だった。






「そっか・・・」
 歩美は二人に、自分の想い、蘭に八つ当りしてしまった事などを一つ一つ話していった。嗚咽交じりの声で聞き取りづらい話だったが、それでも二人は静かに歩美の話を聞いてくれた。
「歩美はよ・・・コナンのこと諦めたのか?」
 一通り聞き終え、一息ついて隣のブランコに腰を下ろした元太が聞き返す。
「それは・・・8年前に。コナン君に告白した時に諦めてた。でも諦めるのと、想いが薄らぐ事は別物だったよ」
「そうか」
 少し目を伏せて優しく答えた元太に、歩美は「ごめんね」とだけ付け足した。
「謝る事じゃありませんよ、仕方ありませんから」
 光彦の言葉も優しく歩美の胸に響いた。光彦に目線を合わせながら、思いを馳せた。

「哀ちゃんも、逢えないのかな・・・大好きなのになぁ」  泣き笑いを浮かべた歩美の前に目線を合わせる様にして、光彦がしゃがみこんだ。
「僕も灰原さんが忘れられません。灰原さんが大好きです・・・歩美ちゃんのコナン君の想いとは少し違う気もしますけど、僕は・・・ずっと灰原さんに憧れてました。逢えなくなって彼女に良く似た愛さんに惹かれてしまう程に」
 歩美は、苦笑を交えた光彦の告白に、今の親友の事を思い浮かべた。

「愛にも悪い事しちゃった」
 歩美が重い口を開く。
「愛と友達になりたいと思ったのは、哀ちゃんにそっくりだったから・・・私は愛の友達だったけど、私にとって愛は、哀ちゃんの代わりにすぎなかったんだ・・・最低だよね。愛は、哀ちゃんじゃないのに・・・」
 そう言いながら歩美は俯いて、雫を制服のスカートの上に零した。
「僕だってそうです。愛さんという人格を、灰原さんの代わりとしかみなしてなかったんです、きっと」
 愛は愛、哀は哀である事を忘れていた──たったそれだけの事なのに、どうして解ってあげられないんだろう。涙が止まらなかった。

「どうして彼女達は僕達に連絡先を残さずに行ってしまったんでしょう。ご両親の仕事の関係だとしても、二人の方から僕らに連絡することは出来るはずです」
 光彦は改めて、立ち上がって呟いた。
「・・・そうだけどよ」
 元太には言いたい事が良く解らない。
「彼らに負けないように必死で努力したのに、彼らに逢えないなんて。近付きたかったんです、二人に。灰原さんに認めてほしかった。彼女やコナン君を見てると自分が情けなくて仕方なかったから。僕達を守ってくれるのはいつも彼らだったから、親友として認めてほしかったです」
「・・・」
「それなのに、彼らと逢えないなんて・・・目標を失って僕はずっと小学一年生のまま立ち止まっていたんです」
「俺だってよ、コナンが羨ましかったぜ!どうして俺はあいつみてーになれねーんだ、ってずっと思ってた」

 歩美を守るのはいつだって自分で在りたいのに・・・
 好きだったから、ずっと。

「だけどあいつがいないのは嫌だ。やっぱりコナンは俺の友達だ・・・灰原もな」
「元太君・・・光彦君・・・」
 逢いたいのは自分だけじゃない。皆も同じだった。元太も光彦も、歩美も。共有する想い出があって、大切にし続けている。
 今、も。これからも。
「そうだよね・・・私、自分だけが辛いみたいに言って、ごめん・・・」
 歩美は額に手を当てる。再び視界がぼやけて見えた。



「二人とも、僕の仮説を聞いてくださいますか」
 突然光彦が口を開いた。
「ずっと、8年間疑問に思っていた事なんですけど、二人に言えなくて」
「・・・なんだよ」
「──コナン君と・・・新一さんの事なんですが」
 少し強張った、声。しばし3人を包んだ沈黙を、歩美が破った。
「・・・どういう、事?」
「・・・はい。歩美ちゃん、僕の言う事・・・驚かないで聞いてください。──コナン君は・・・新一さんかもしれない」

 風が通り過ぎた。
 月明かりに照らされた公園に冷たく、少し身体の芯を痺れさせるような・・・

「・・・意味解んねーよ」
 元太がぽつりと口を開いた。その光彦の話はあまりに唐突で、理解が追いつかない。
「だってコナン君、小学生のくせに爆弾とか、拳銃の扱いまで知ってるんですよ?ホームズに詳しいのも、新一さんと同じ・・・」
 訴えかけるように、光彦は声をしぼり出した。
「年齢がが違うじゃねーか!」
「そうだよ・・・おかしいよそんなの・・・」
 歩美は、信じられないといった表情をしている。コナンと新一が、重なって見える時が、無かった訳ではない。いやむしろ、ついさっきだって、新一の中にコナンが見えた気がした。

「灰原さんが転校してきた日、偽札作り団を追っている時彼は言ったんです。‘あいつらは薬で俺の体を小さくした’って」
「あ・・・」
 あの時コナンは焦っていた。組織の一員かもしれない奴らを追っていたから。演技を忘れ、つい本当の事を口走ってしまっていた。
「全てつじつまが合うんですよ・・・」
「じゃあ、哀ちゃんは・・・」
「彼女も彼と同じ様な状況だったと思うんです。憶測にすぎませんが」

 二人が共有した、秘密。
 三人はそれに初めて気付いた・・・






















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