8years (9)











 空は快晴。
 ひとかけらの雲も浮かんでいないある日の午後、少年探偵団であった三人はは工藤邸の前に立っていた。
 緊張で少しだけ冷たい指先でインターホンを押すと、蘭の声が聞こえてきた。
「あら・・・皆。今呼ぼうと思っていたのよ」
「私達を?」 歩美が答える。
「・・・大切な話があるの」
 玄関から出てきた蘭は三人をリビングに行くよう促すと、自室にいる新一を呼んだ。
「・・・あの子達が来たわ」

「じゃあ、さっき言った事、あいつらに言ってくれないか?準備したらすぐに行くから」
 新一は事務所の引き出しから、あの頃、使い古した《あれ》を取り出した。
 少しだけ汗ばんだ手で、ぎゅ、とそれ握り締めると焦る鼓動を感じた。
(・・・大丈夫大丈夫)
 新一はいつも前向きにだったし、強気で突き進んできたけれど。
(大丈夫だから)
 不安も弱さも無しに生きて来た訳ではない。

 鋭い目線で前を見つめた。
(大丈夫。きっと、変われる)





 蘭から歩美達に告げられたのは、《今日、この家にコナンがやってくる》と言う事だった。それを聞いた三人が、驚きを隠せる訳はない。あの時、確かに彼は、「もう会えない」と言ったのだ。
 そして、喜びだけを感じることは出来なかった。
 会いたいと、思っていたけれど、会えないと思っていた。あまりにもいきなりの事で、気持ちの整理はつかない。どくん、と歩美の胸が鳴った。それからまた大きな手で鷲掴みにされたように心臓が締め付けられた。それは、光彦も元太も同じだった。今日、自分達は真実を知りたくて、いきなりこの家に押しかけた。けれどそこで待ち構えていたのは・・・

『オメーら、久しぶりだな』

 突然リビングのドアから聞こえてきたのは、懐かしく・・・けれど、待ち望んでいた人の声。
 そう、彼の声だ。彼の声が部屋の外から聞こえてくる。8年前と寸分の違いもない彼の声。あの、自信たっぷりで、いつだって前向きで、自分達の中心にいた彼――江戸川コナン。
 ――え?
 そこで、歩美は耳を疑う。
 8年前と、同じ声?
 あれから、8年も経っているのに!
 彼は15歳になった筈だ。自分達と同じように。3人はその疑問が頭の中に渦巻いているままリビングのドアを見つめると、期待に反して部屋に入ってきたのは自分達もよく知る、工藤新一。
 その右手に懐かしい蝶ネクタイを持って、口元にあてがっている。
『江戸川コナン、探偵さ・・・!』そうやって、笑顔で言う。
 あの頃に、8年前に一瞬で引き戻された。目の前に眼鏡をかけた蝶ネクタイの少年が見えた気がした。
 3人が一瞬の幻影を見た後、新一は蝶ネクタイを口元から遠ざけて、ソファに腰かける。あとからリビングに入って来た蘭も隣に座った。
 新一が大きく息を吸い込んだのが解った。そして、ゆっくりと告げる。


「江戸川コナンは・・・俺なんだ」


 それは、光彦の仮定した真実そのものだった。

「薬を・・・さ、飲まされたんだ。蘭と遊びに行って、怪しい奴を見つけて好奇心で追っかけて、殴られて・・・口封じのために」
 いつも自信に満ち溢れた印象しかない探偵は、少しさびしげな顔をして口を開いた。
「奴らは俺を殺すためにそれを飲ませたんだろうけど、目が覚めたら体が縮んでた。小学生に逆戻りさ」
 新一は、鼻を鳴らした。苦々しく笑ったのは、決して歩美達に対してではない。

 語られたのは信じかたい、空想の中の話だったと思う。
 突きつけられた真実は、事実かもしれないけれど。あまりに現実離れしすぎていた。

「やっぱり・・・!僕らもそれを確かめに来たんです!コナン君が、新一さんだったんじゃないかって」
 一番この事実を受け入れられたのは、光彦だった。好奇心旺盛な、その真実を探求したがる性格は、自分に一番良く似ていると、新一は思った。
「その怪しい奴って、一体何だったんですか?」
「犯罪組織さ。世界的規模の、な」
 その一方で、歩美は、覚悟を決めてここにやって来たつもりだったが、完全に心の準備ができているわけではなかった。少し戸惑いがちに、唇を震わせる。
「薬って・・・縮むって・・・?でも新一さんは今ちゃんとここにいるのにどうやって・・・?」


  「それは、私が若返り薬”APOTX4869”の考案者だからよ」


 その問いに答えたのは、新一ではなかった。






















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